みなさん、こんにちは。英語シニアディレクターの鍬田功樹です。今回は、英熟語・イディオムの効率的な覚え方について解説します。
前回・前々回の記事では、市販の単語帳を使った高速暗記法と、オリジナル単語帳の作成方法についてお伝えしました。
私自身、単語帳の暗記法で効果を実感していたこともあり、熟語帳でも同じ高速周回法を試したことがありますが、単語のようにはなかなか定着しませんでした。何周回しても頭に入らない熟語が次々と出てきて、「英単語学習の時に自分なりの学習法を生み出した時のように、英熟語の学習も最適化する方法がある」と感じたのです。
その後たどり着いたのが今回ご紹介する「前置詞のコアイメージ」を使った学習法です。本記事ではその具体的な方法を、手順を追って解説します。
本記事でご紹介する内容には、次のような特徴があります。
まず知っておいていただきたいのが、英熟語には大きく2つのタイプがあるということです。この区別が、今回の学習法を理解するうえで最も重要なポイントです。
give up、find out、carry on のように、「基本動詞+前置詞・副詞」の組み合わせでできている熟語です。英熟語の大半はこのタイプに当たります。このタイプは、前置詞・副詞のコアイメージを理解することで「なぜこの意味になるのか」が説明できます。
"The world is your oyster"(人生は自分の力で切り開ける)のように、構成する単語の意味からは全体の意味が推測できない表現です。これはシェイクスピアの作品に由来する表現ですが、このような完全なイディオムは前置詞のコアイメージでは説明できません。由来や背景を知ることで覚えやすくなるものもありますが、基本的には出会ったときに一つひとつ覚えていくしかありません。
この2つのタイプで覚え方が変わります。タイプAには「前置詞のコアイメージ」を、タイプBには「オリジナル単語帳への蓄積」を使います。それぞれの方法を順に解説します。
英単語の丸暗記が機能する理由は、単語と意味が1対1で対応しているからです。"apple"→「リンゴ」のように、繰り返し目にするだけで脳が対応関係を覚えてくれます。
ところが熟語(タイプA)は、複数の単語の組み合わせである上に、直訳では意味が通じないものがほとんどです。「なぜこの意味になるのか」がわからないまま丸暗記しようとすると、記憶の「引っかかり」がなく、いくら反復しても定着しません。複数の単語が組み合わさってできている熟語は、「なぜこの意味になるのか』を理解することが定着への最短ルートです。
その引っかかりを提供してくれるものの1つが、「前置詞のコアイメージ」です。
前置詞・副詞にはそれぞれ固有のコアイメージ(その単語が持つ最も根本的なイメージ)があります。このコアイメージを先に理解しておくと、「なぜ give up が『あきらめる』になるのか」という理由がわかり、記憶に強い引っかかりができます。さらに、1つのコアイメージを押さえることで、複数の熟語が芋づる式に定着するようになります。
以下に、特に頻出の5つの前置詞のコアイメージと代表的な熟語を紹介します。より網羅的・体系的にまとめたものは、今後の記事にてご紹介する予定です。
"up" と聞くと「上」を思い浮かべますね。コップに水を注ぐ場面を想像してみてください。水位がどんどん上がり、最終的にコップのふちまで達する。この「上まで到達する=完全にやりきる」というイメージが "up" のコアです。日本語の「〜きる」(飲み干す・使い果たす・食べ尽くす)に近い感覚です。
・give up(あきらめる)→
完全に手放して終わりにする
・use up(使い果たす)→
最後まで使いきる
・eat up(食べ尽くす)→
全部食べきる
・drink up(飲み干す)→
最後まで飲みきる
・show up(現れる)→
表面に浮かび上がってくる=姿を現す
・stay up(起きている)→
上の状態を保ちつづける=寝ずにいる
"out" のコアイメージは「内側から外側への移動」です。箱の中に隠れていたものが外に飛び出す場面を想像してみてください。「外に出し切る=完全になくなる」「外に出す=隠れていたものが明らかになる」という2つのニュアンスが生まれます
・find out(〜を知る・発見する)→
隠れていた情報を外に引き出す=明らかにする
・run out(なくなる)→
外に出てしまって残りがゼロになる
・burn out(燃え尽きる)→
完全に燃えて出し切る
・point out(指摘する)→
外(表面)に向けて指し示す
・carry out(〜を実行する)→
外に運び出す=実際にやり遂げる
・figure out(〜を理解する)→
頭の外に引き出して形にする=答えを導き出す
"in" のコアイメージは「外から内側への移動、または内部にある状態」です。部屋の外にいた人がドアを開けて中に入ってくる場面を思い浮かべてください。日本語の「どっぷりはまる」「深く関わる」に近いイメージです。
・believe in(〜を信じる)→
~の中に深く入り込む=心から信頼する
・result in(〜という結果になる)→
最終的に〜の中に収まる=〜に行き着く
・take in(〜を理解する・取り込む)→
自分の内側に引き込む
・give in(屈服する)→
相手の中に入ってしまう=押し負ける
・hand in(〜を提出する)→
担当者の手の内側(管理下)に渡す
"off" のコアイメージは「それまでくっついていたものが切り離される」です。セロテープを勢いよく引きはがす場面を想像してみてください。ぴたっとくっついていたものが、ベリっと離れる。この感覚が "off" の根本にあります。日本語の「引き離す」「切り捨てる」に近いイメージです。
・take off(離陸する・脱ぐ)→
地面や体から離れる
・put off(〜を延期する)→
今から切り離して後ろに置く=後回しにする
・call off(〜を中止する)→
引き戻して切り離す=なかったことにする
・show off(見せびらかす)→
普段は隠れているものをわざと切り出して見せる
・pay off(報われる・完済する)→
借りを切り離す=きれいに清算する
"on" のコアイメージは「何かに接触している・乗っている」状態です。テーブルの上にコップが置かれている場面を想像してください。コップはテーブルに触れ続けている。この「接触が続いている」状態が "on" の根本にあります。そこから「継続している・作動している」というニュアンスが生まれます。
・carry on(続ける)→
接触したまま前に進み続ける
・go on(続く・起こる)→
接触したまま進んでいく=途切れずに続く
・turn on(〜をつける)→
スイッチに触れて接続する=作動させる
・count on(〜を頼りにする)→
〜の上に体重をあずける=頼りにする
・get on(乗る・うまくやる)→
上に乗る=うまく乗りこなす
熟語帳を開く前の準備として、本記事の前置詞コアイメージをノートにメモしておきましょう。学習中にいつでも参照できる状態にしておくことが大切です。スマートフォンでこの記事を開いておくだけでも構いません。なお、コアイメージをさらに深く学びたい方は、信頼できる文法書や専門書を参照することをおすすめします。今後、前置詞のコアイメージをより網羅的・体系的にまとめた記事もご紹介予定ですので、ご期待ください。
熟語帳で1つの熟語を見たとき、含まれる前置詞のコアイメージと照らし合わせて「なるほど、だからこの意味か」と、数秒間考えます。納得感があれば十分で、コアイメージと結びつかない場合はそのまま次に進んでください。1つの熟語に多くの時間をかけるのではなく、回転率を意識して学習してください。
コアイメージと照らし合わせたら、熟語の意味を確認し、声に出して読みます。1熟語あたり3〜5秒を目安にしてください。単語のときより少し時間をかけて構いません。
何周回しても覚えられない熟語が出てきたら、オリジナル単語帳に書き加えて重点的に管理しましょう。オリジナル単語帳の作成方法については、前回の記事を参照してください。
前置詞のコアイメージで説明できないタイプBの完全なイディオムは、長文読解や過去問で出会ったときにオリジナル単語帳へ追加し、定期的に復習する習慣をつけましょう。オリジナル単語帳については、前回の記事を参照してください。
ここまで、英熟語の2つのタイプと、それぞれに合った覚え方について解説しました。
タイプA(動詞+前置詞・副詞)はコアイメージで理解し、タイプB(完全なイディオム)はオリジナル単語帳で管理するのみです。簡単ですね。この使い分けを意識するだけで、これまでの熟語学習とは大きく変わるはずです。まずは今日ご紹介した5つの前置詞のコアイメージを頭に入れることから始めてみてください。
ぜひ参考にしてみてください。